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外から買われる土地と、買われない土地——ニセコ・安比・白馬の地価が9年で示したこと

  • 2 日前
  • 読了時間: 9分

国が毎年出している地価のデータを、長く眺めていると、土地には二つの種類があることが見えてきます。

外から買われていく土地と、外から買われない土地です。

今回は、八ヶ岳西麓の三町村(茅野市・富士見町・原村)と、いまニュースでよく名前を聞くスキーリゾート——北海道のニセコ(倶知安町)、岩手の安比高原(八幡平市)、長野の白馬村・野沢温泉村、それに軽井沢——を、同じ国のデータで並べて見てみました。

数字を並べると、同じ「リゾート地」「移住先」とひとくくりにされがちな土地が、実はまったく逆の方向を向いていることがわかります。そして、その違いは、これからの暮らしの土台を選ぶときに、案外大事な意味を持っています。

1. 同じ9年で、片方は6倍、片方は横ばい

まず、数字から見ていただきます。

国の地価調査(毎年9月発表・別荘地や集落の地価を映すもの)で、2016年から2025年までの9年間、同じ地点がどう動いたかを追いました。同じ標準地を追跡しているので、見かけの平均ではなく、その場所の実際の値動きです。

土地の性格

市町村

9年間の地価変化(中央値)

観光資本依存型

倶知安町(ニセコ)

+196%

観光資本依存型

野沢温泉村

+48%

観光資本依存型

軽井沢町

+45%

観光資本依存型

白馬村

+24%

観光資本依存型

八幡平市(安比高原)

−19%

縄文構造残存型

原村

±0%

縄文構造残存型

富士見町

−11%

縄文構造残存型

茅野市

−17%

ニセコの一番上がった地点は、2016年に1㎡あたり26,000円だったものが、2025年には167,000円になっていました。9年で6.4倍です。

その同じ9年で、八ヶ岳西麓の三町村は、横ばいか、少し下がっています。

この差を「ニセコは成功で、八ヶ岳は出遅れ」と読むこともできます。多くの人はそう読みます。けれど、もう少し長い時間軸と、土地の中身に目を向けると、別の読み方が見えてきます。

2. 6倍になった土地で、いま何が起きているか

地価が6倍になるというのは、その土地が外からの大きなお金で買われ続けた、ということです。

ニセコの値上がりは、海外からの投資で進みました。円安を背景に、海外の投資家から見ると日本の不動産は割安で、香港やシンガポールなどからの資金が流れ込み、現金での購入が多いために相場をどんどん押し上げてきた、と報じられています。

その結果、地元では何が起きているか。ラーメン一杯が3,000円、リフト券が一日9,500円という水準になり、富裕層の基準で物価が決まるため、もともと住んでいた人が暮らしにくくなっている、という声が伝えられています。土地を持っていた人が売って出ていき、買ったのは外から来た資本です。

そして、その熱がいったん冷めると、何が残るか。ニセコでは2025年4月、219室のコンドミニアムと高級ヴィラを備える予定だった最大級のリゾート開発が、工事が3割ほど進んだところで破綻しました。負債は数十億円とされ、鉄骨だけの建物が青いシートに覆われたまま止まっています。所有者が誰なのかよくわからない別荘地が増え、税金が払われないまま放置される、という問題も各地で起きています。

国も動き始めました。2025年5月、国土交通省は、高くなりすぎたマンション価格の一因に外国人の投資があるとの見方から、登記の情報を使って実態を調べ始めると発表しています。かつてインバウンドを歓迎していた立場から、実態の把握へと向きが変わったわけです。

これは、ニセコや安比を責める話ではありません。外からのお金が地域を一時的に潤すのは事実で、それを選んだ地域の判断にも理由があります。ただ、土地の値段が外からのお金の勢いで決まっている、ということは、その勢いが引けば値段も暮らしも揺れる、ということでもあります。上がるときに一気に上がる土地は、下がるときにも一気に下がります。

ひとつ、覚えておきたいのは、安比高原(八幡平市)の数字です。同じ「外資が入ったスキーリゾート」として語られますが、市全体の地価調査では9年で−19%。ニセコのように一様に上がってはいません。外から運営ごと買われた観光の中心部と、その周りで普通に暮らす人の土地とは、同じ市の中でも別の動きをしている。「外資リゾート=値上がり」という単純な話ではないのです。

3. 「動かない」ことの中身

では、八ヶ岳西麓の三町村が横ばい・微減なのは、価値がないからでしょうか。

ここで、もう一つの数字を見ていただきます。2020年から2025年までの、土地の取引「件数」です。値段ではなく、どれだけ売り買いが起きたか、市場がどれだけ動いているかの量です。

市町村

6年間の取引件数

軽井沢町

2,449件

北杜市

1,603件

茅野市

925件

八幡平市

572件

富士見町

428件

倶知安町(ニセコ)

407件

白馬村

356件

原村

256件

野沢温泉村

50件

ここに、面白い符合があります。

あれほど地価が高騰し、世界的に名前の知られたニセコ(倶知安町)の取引件数は407件。八ヶ岳西麓の富士見町(428件)と、ほとんど同じです。

地価が6倍になった土地と、横ばいの土地で、実際に動いている件数はほぼ変わらない。これは何を意味するか。ニセコでは、少数のとても高い物件が動いているだけで、普通の人が普通に売り買いする市場の裾野は、見た目の派手さほど厚くない、ということです。値段は跳ねたけれど、暮らしの売買そのものが大きく増えたわけではない。

そして野沢温泉村の50件。6年間で50件しか動いていません。これは、地価調査では+48%と上がっているのに、実際にはほとんど土地が手放されていない、ということです。観光地として名前は通っていても、地元の暮らしの土地は、外には出ていかない。

八ヶ岳西麓の「動かない」も、これに近いものです。原村256件、富士見町428件。派手ではありません。でもこれは、住んでいる人が土地を手放さない、外からのお金で総取りされていない、という静かな事実の裏返しでもあります。土地が向こうから次々に売りに出される地域より、なかなか出てこない地域のほうが、そこに根を張って暮らしている人が多い、とも言えるのです。

4. 国の鑑定士が書いた、土地の中身

地価のデータには、その土地が「どういう場所か」を国の不動産鑑定士が記録した一文がついています。これを並べると、数字の差が、暮らしの質の差であることがよくわかります。

観光資本依存型の土地は、こう書かれています。

  • 白馬村:「ホテル、飲食店、土産品店等が建ち並ぶ商業地域」

  • 倶知安町(ニセコ):「別荘住宅とペンション等が見られる住宅地域」

  • 野沢温泉村:「民宿、一般住宅等が混在する傾斜地の住宅地域」

  • 軽井沢町:「中規模別荘が見られる大規模分譲別荘地域」

一方、八ヶ岳西麓の土地は、こう書かれています。

  • 茅野市:「農家住宅の中に農地等が見られる住宅地域」

ホテル・土産品店・別荘・ペンションが並ぶ土地と、農家住宅の中に農地がある土地。これは、観光のための土地と、暮らしのための土地の違いです。どちらが上ということではなく、性格が違う。観光地は外から来る人のお金で値段が決まり、暮らしの土地はそこに住む人の根の深さで価値が決まります。

外から買われていく土地というのは、観光のための土地です。外から買われにくい土地というのは、すでにそこで暮らしが営まれていて、土地が人の暮らしと結びついている土地です。

5. 大きく見ると、これは渋谷でも起きている

少し視野を広げます。

いま都心でも、似たことが起きています。渋谷区では公示地価が前年から12%を超えて上がり続けています。マンションの価格は、この9年で1㎡あたり92万円から179万円へと、ほぼ2倍になりました。長く渋谷の街にあった東急ハンズの跡地でも、訪日客を狙ったホテルの再開発が動き出しています。円安を背景に、海外の投資家が日本の不動産を割安と見て資金を入れ、ホテルやオフィスへの投資が相場を押し上げている、と報じられています。

ニセコと渋谷は、規模も場所もまったく違います。けれど、土地を動かしているお金の性質は同じです。外から来た、その土地に根を持たないお金が、実物の土地を買っていく。お金は、その街で誰かが暮らしているかどうかには関心がありません。関心があるのは、買って、貸して、また売れるかどうかだけです。だから根のないお金が動かす土地は、住む土地ではなく、転がす土地になっていきます。違うのは、リゾートは屋外にあるから乗っ取りが目に見えやすく、都心のタワーマンションは外から見ても分からない、というだけです。

世界の基軸通貨の動揺や、食料の安全保障への関心の高まりといった、もう少し長い時間軸の話とも、これはつながっています。お金そのものへの信頼が少しずつ揺らぐとき、お金は実物の土地に向かいます。そのとき真っ先に買われるのは、誰でも分かる派手な土地——ニセコであり、渋谷です。

買われた土地は、お金の勢いとともに上がり、勢いが引けば下がります。買われなかった土地は、ゆっくりとそこにあり続けます。

6. 自分の暮らしを、外の判断の外側に置く

ここまでの数字を、暮らしの言葉に戻します。

外から買われていく土地で暮らすというのは、自分の暮らしの土台の値段が、自分の知らないところで決まる、ということです。海外の資金が入れば上がり、引けば下がる。便利で、華やかで、効率の点ではとても優れた仕組みです。それを否定する必要はありません。

ただ、もう一つの選び方があります。自分の暮らしの基礎の部分を、外の判断ではなく、自分の手の届くところに置く、という選び方です。

八ヶ岳西麓の三町村は、四方を高い山に囲まれた標高900〜1,500メートルの土地で、新幹線やリニアの大きな動脈からも外れています。だから外からの開発の波が届かず、区・畑・山林という暮らしの土台が、いまも実際に機能したまま残っています。井戸のある家もあります。山林を持っていれば薪はそこから出ます。畑があれば野菜は自分でつくれます。

派手な準備ではありません。日々の暮らしの中に組み込まれた、静かな自前化です。

地価が6倍になる華やかさはありません。けれど、外からのお金の勢いに値段を預けていない分、その勢いが引いても揺れません。動かないことは、出遅れではなく、外に振り回されない、ということでもあります。

国が外国人投資の実態を調べ始めたこと自体が、時代の空気が「外から来るお金に乗る」方向から、「自分の暮らしの土台を自分で持つ」方向へ、少しずつ戻り始めている兆しのように見えます。

これは流行を追う話ではありません。自分の暮らしを、自分で選ぶ、というだけの話です。

このコラムで使った数字は、すべて国土交通省が公開している地価調査・地価公示・不動産取引価格のデータ(2016〜2025年)にもとづいています。八ヶ岳ライフでは、こうした公的なデータを、土地を見るときのひとつの背景として参照しています。

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